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科学研究費補助金 基盤研究(A)平成24年度~平成26年度 「固体中のディラック電子」

研究内容

研究概要

ディラック電子系は,2次元グラフェンやトポロジカル絶縁体の表面状態として精力的に研究されていますが,本研究ではバルク測定が可能な4つの別な系について理論的な研究を行い,実験との比較検証も通してディラック電子系に普遍的な性質を探求します.
具体的には、グラフェンでは起こることのないような以下の3点に絞って研究の目的としています.

  1. ディラック電子系が出現する相転移,出現条件・安定化の条件の解明
  2. ディラック電子系の内部自由度の問題
  3. スピン軌道相互作用の効果,磁場効果,スピンと電荷の相関

これらの研究を通して,ディラック電子系の概念の拡張・統合を目指します.

研究課題

「固体中のディラック電子」

1928年,量子力学創設者の一人であるディラックが,相対性理論を量子力学に組み込む中で,「ディラック電子」の存在を予言しました.実はこのディラック電子は身近な物質の中に存在し,それが多彩な物性を生み出すことが,最近明らかになりつつあります.私たちはこれらディラック電子系物質に普遍的な,魅力ある物性を探求しています.

「ビスマスにおけるディラック電子」(伏屋・小形・福山)

ビスマスは安全な元素の中で最大のスピン軌道相互作用をもっており,これが基で実に多彩な性質を示します.例えば私たちは,エネルギー散逸のない純スピン流(スピンホール絶縁体)や完全スピン偏極電流などが実現することを見出しました.こうしたビスマス中ディラック電子による新しい輸送現象の開拓を目指して研究を行っています.

「スピントロニクスの理論的研究」(多々良)

スピンと電荷の輸送現象(スピントロニクス現象)の理論的研究を行っています.特に,スピン蓄積を用いたスピン注入,磁化ダイナミクスを用いたスピンポンピング効果,逆スピンホール効果,温度勾配を用いたスピン流生成(スピンゼーベック効果),光誘起磁化反転などの現象に関して,微視的な解析による現象の理論的理解を進めています.スピンと電荷の関わるこれらの現象で主役となるのはスピン軌道相互作用です.

「有機導体におけるディラック電子」(小林・鈴村)

有機導体α(BEDT-TTF)2I3塩で見つかったディラック電子はバンドの偶然の縮退点で出現しますが,ハミルトニアンが4行4列であるため原因は分かっていません.そこで,波動関数の微視的理解や,分子間飛び移り積分のどのような対称性に原因があるのかを研究しています.さらにこの物質を超えた一般的な視点からの研究も計画しています.

「固体中ディラック電子によるトポロジカル効果」(森成・遠山)

固体中のディラック電子の最大の特徴のひとつがカイラリティです.ネジの左巻き,右巻きに対応して,ディラック電子にも左巻き,右巻きがあります.カイラリティはベクトル場で表され,様々な状況下で位相幾何学的な特長が顔を出します.このような素粒子が固体中で実現することによる新しい物理現象の解明と探索を行っています.